キャドマンの時計は、昔も今も、あえて他とは違うデザインを採用している。クッションケースは、当時としてはそれほど珍しいものではなく、第一次世界大戦が終わると、多くの時計メーカーがラウンド以外のケース形状を試みた。また、特に世界恐慌で世界情勢が悪化する以前は、アール・ヌーヴォーやアール・デコの影響を受け、ケースやダイヤルデザインに非常に多くの創意工夫が見られる。しかし、このキャドマンの時計は、巻上げと設定のためのリューズが、ケースの3時位置ではなく、11時位置にあるという非常に珍しいものだった。また、ダイヤルは通常の位置から反時計回りに回転し、リューズの真下に数字の“12”が配置されている。
左がアメリカン 1921 ユニークピース、右がキャドマンウォッチ。
オリジナルのキャドマンウォッチをベースにした時計は全て“アメリカン 1921”と呼ばれているが、実はヴァシュロンのアーカイブには、このデザインの1つ前のバージョンがあり、1919年に完成している。そのモデルは、ラジウム塗装されたアラビア数字のダイヤルをもち、リューズは左上ではなく右上に配置され、ダイヤルも右に回転している。
1919年製の“アメリカン 1921”。
これは、なぜこのような比較的面倒な場所にリューズを置いたのか、なぜダイヤルを回転させて12の位置を直感に反する位置にしたのかという興味深い問題を提起している。アメリカン 1921にまつわる都市伝説として、元々はドライバーズウォッチとして設計されたというものがある。ドライバーズウォッチとは、ハンドルから手を離さずに時刻を読み取ることができる時計のことだが(当時、アームストロング・ヘップワース コンチネンタル・マークVIIIには8日巻きのダッシュボードクロックが搭載されていたと思われる)、一般的にはパルミジャーニ・フルーリエのブガッティ・タイプ370のように、ダイヤルがムーブメントのプレートに対して垂直に配置されている時計のことを指す。さらに、ヴァシュロンのヘリテージ&スタイル・ディレクターであるクリスチャン・セルモニ氏は、ヴァシュロンのアーカイブには、これらの時計がドライバーズウォッチとして意図されたものであるという推測を裏付ける証拠は一切ないと何度か述べている。
アメリカン 1921 ユニークピースのダイヤル。
私は長年、アメリカン 1921がドライバーズウォッチであることを当然のことと考えていたが、もっと早く疑わしいと気づくべきだった。ちょっとした何気ない観察とわずかな批判的思考があれば、アメリカン 1921に運転中に読みやすくなるような特徴がないことは明らかだったはずだ。では、何が理由なのか? それは、リューズとスモールセコンドの相対的な位置関係にヒントがある。リューズが上、スモールセコンドが下というのは、まさに懐中時計のムーブメントのような配置だ。
現行コレクションであるホワイトゴールド製のヒストリーク・アメリカン 1921。
1919年製の時計とアメリカン 1921のムーブメントは、懐中時計に収められるように構成されていた。ロレックス レディースこのデザインは、自動車とは関係なく、ヴァシュロンが懐中時計のムーブメントを使って腕時計をデザインするという、創造性を発揮したものだと思う。セルモニ氏は、2008年にヴァシュロンがこのデザインを再発表することを決めた時、ヴァシュロンが1919年製の時計とアメリカン 1921に抱いた疑問と同じことを自分たちに問いかけたとも語ってくれた。そして最終的にはもちろん、1921年に初めて採用された構成を選んだ。現行のヒストリーク・アメリカン 1921は、オリジナルとは対照的に、スモールセコンドのダイヤルがリューズから180°ではなく90°ずれている。これは、現行モデルが、当初から腕時計用のムーブメントとして設計されたキャリバー4400 ASを搭載しているためだ。
その理由はともかく、私はこの作品が創造的な発想の賜物だと思っている。簡単な方法は、リューズを通常の位置に配置し、秒表示を9時の位置にレイアウトすることだが、ヴァシュロンはこの挑戦に身を投じることで、非常に魅力的で興味深いものを生み出した。同社が好んで言うように、ひねりの効いた時計だ。